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「は?カカシ先生がそんなこと言われてたのか?」 「同じ木の葉の里の忍びならさあ、はたけ上忍の心境を察するに余りあるだろうに。きっと常日頃のやっかみだとかストレスだとかをぶつけたかっただけなんだよ。それなのにはたけ上忍は怒りもせずに受け流して任務に行ったんだ。ほんと、エリートって言うのはそういう所もしっかりしているって言うか、さすがだよ。」 同僚はそう言ってうんうんと頷いている。 「はぁ〜、疲れた。こう言う時は熱燗できゅーっと一杯いきたいもんだねえ。」 火影様、その案は却下です。と受付中の誰もが思ったに違いない。 「はぁ、疲れたなぁ、おい。」 「アスマがあそこで近道なんかしなければ敵になんて気付かなかったのよ。」 しばらくすると、アスマ先生と紅先生がやってきた。どうやら今回の任務は二人で同行していたらしい。 「はい、受理しました。お疲れ様です。」 が、受理した後も、アスマ先生はなかなか前から立ち去ろうとしない。どうしたのかと首を傾げていると、火影様の席をちらっと見て、少し言いにくそうに言った。 「あ〜、綱手様はまだあいつらの治療中なのか?」 なるほど、アスマ先生、素直じゃないからなあ。心配なら心配って言えばいいのに。 「火影様は今接客中です。サスケ奪回班の子たちのことでしたら、みんな安全ラインは確保したとのことでしたから、大丈夫ですよ。」 アスマ先生はそうか、と言って少し笑ったようだった。そして今気が付いたのか、煙草に火を付けた。表面上ではそうは見えなかったが、やっぱり動揺してたんだろうなあ。 「アスマったら任務中ずっと気になってたのよ。だから一刻も早く帰りたくて近道なんかしようとして。」 紅先生はくすくすと笑っている。と、そこに耳障りな声が聞こえてきた。 「けっ、元はと言えばあの天才忍者のはたけカカシがだらしねえからこうなったんじゃねえかよ。」 ぼそりと聞こえてきた言葉に俺は瞬時に反応してしまった。声のした方向を見ると、受付のソファに数人の男たちが座っていた。 「いつかこんなことになるんじゃないかと思ってたんだよ。九尾のガキもうちはの生き残りも、マインドコントロールでもなんでも、首に鎖をつけて監禁していればよかったんだ。みすみす敵の手に渡る前によお。」 男たちの言い分は、かつてナルトやサスケを扱うにあたって、一度は論議の机上に上がった意見でもあった。 「結局、エリートだ天才だと言われて天狗になって、部下の管理もろくにできなかったってことだろうが。上忍師っつっても、裏ではなにやってたんだかな。」 「案外、今回のうちはの里抜け、あのエリートがそそのかしたんじゃねえの?」 「ありえるかもなあ。奪回班を助けに行ったらしいが、もしかしてあの大蛇丸と繋がって手引きしてたんじゃねえの?」 男たちがけらけらと笑っている。 「ふざけるなっ。お前らよくもそんな恥さらしなこと言えるなっ。」 あの人がどれだけ苦しんでいるかなんて知りもしないくせに。失ってきたものを、悲しみを胸の内に閉じこめて笑うしかできない、不器用で優しいあいつを愚弄する奴は、俺が許さねえっ。 「ぐ、があぁあっ」 激しい頭痛がして思わずその場に崩れた。頭を押さえるがどうにもならない。腕の感覚がもはやない。手がそのまま腐り落ちていくんじゃないかと思わせるような絶望的な痛みだ。 「イルカ、どうしたっ」 俺を押さえていたアスマ先生が俺の様子を見ている。 「お前ら、イルカに何をしたっ。」 「何もしてねえよっ。勝手に苦しんでんだろっ。」 男たちも俺の痛みの形相に呆然としているようだ。だめだ、意識が、朦朧としてくる。目が、霞む。 「これは、前にもあった症状だわ。イルカ、あんた病院にいかなかったのっ?」 紅先生が俺の顔を覗き込んで聞いてくる。 病院、そう言えばそんなことを言っていたような気がしたが、でも、あれからは何も、こんな症状は。 「おい、紅。前にもあったってどういう事だ?」 「だから、前にもイルカと話しをしてて、急にこんな風に頭と、あと腕に激痛が走ったみたいで、でもその時はすぐにその症状が治まったのよ。」 「どういうことだ?この痛がり方、尋常じゃねえぞ?」 「あたしもそう思って病院へ行くように言っていたのに。イルカ、とにかく今すぐに病院に連れて行くわ。」 その時、バタン、と大きな扉の開く音がしてカツカツと靴音を鳴り響かせて人が入ってきた。 「なんだいなんだい、騒々しい。来客中くらい静かにできなかったのかいっ?」 綱手様が帰ってきたらしい。 「綱手様、丁度良いところに。イルカを診てやって下さいっ。」 アスマ先生がせっぱ詰まった声を上げている。少し珍しい。 「イルカ?どうしたんだい。ひどい痛がりようだ。どこが痛む?何をしていてこうなった?」 俺は、恐ろしく痛む腕を、ぶるぶると震えながら綱手様に差し出した。冷や汗が滝のように流れ出る。もう、俺の命は風前の灯火かと思えるほどだ。 「これは封印術だね。しかも精神に負担をかけるものだ。最近、何か変わったことはなかったかい?チャクラが練れないとか、あとは記憶がなくなってるとか。いや、そんなことはどうでもいい。とにかく開印する。」 「ちょっと待ってください。実は、イルカは自分で自己暗示をかけて一人の人物の記憶をなくしてるんです。それのことだったら、」 「は?自己暗示?そんななまっちょろいもんじゃないよ。術者が渾身のチャクラで施した凶悪な封印術だ。医療忍術に詳しい者でないと施術できない上に、術を仕掛けた方もかなりのリスクを負う。おそらくこの里で私以外に開印できる者はいないだろう。イルカ、少しの辛抱だ、我慢しとくれ。」 綱手様は印を結んでいく。そして右手にチャクラを集中させると、そっと俺の腕に触れてきた。今までの比ではない痛みが全身を走った。だが、それは一瞬で終わり、ほどなくして痛みは引いていった。 「あ、」 俺は、涙をこぼした。誰のために泣いたのか、己のためか、それとも別の人物のためか。体の痛みではないその涙に、俺はなすすべもなく、ただ呆然と流れるままにしておいた。 「カカシ、」 と。 |